童話少年-NOT YET KNOWN-
きびだんご争奪戦
4人の間には妙な緊張感と、それに伴う切迫があった。
しかし表情だけを見るなら、全く相反して愉しげに口角は上がっている。
矛盾しているようで、していない。
彼らは確かに、この状況を楽しんでいるのだ。
「3対1でいいよ。争奪戦だからね」
最初に口を開いたのは、この『きびだんご争奪戦』という突飛な案を始めに言い出した、雉世だった。
廃工場や使われていないビルに囲まれた、少し拓けた空間。
それでも車が5、6台ほどなら楽に入りそうな広さがあるそこに、雉世が先導するままついて来た。
警戒心がないわけではないが、賢い彼がわざわざ自身を不利な立場に追い込むような行動に出るとは思えないし、仮にこれが何かの罠だったとして、自分達ならば逃げ遂せると3人は考えたのだ。
そうして、考えの読めないクラスメイトに、不快を隠そうともしない。
「は、3対1? ナメてんの?」
「まさか……央神さんが空手黒帯なのも、秋山くんの“伝説”の真相も知ってるよ。甘く見ていい相手じゃない」
「っ、おい佐津賀、」
「……ちょっと……、何だよそれ」
雉世が薄く笑いながら口にした言葉に、紗散の眉がひそめられる。
それと同時に、細められた涓斗の右目。
彼のそれが感情に関わりなく人やものを見やる時の癖だというのは知っているが、今のそれには明らかに、苛立ちと僅かな焦燥が含まれていた。