童話少年-NOT YET KNOWN-
「涓斗……? あれ、ただの噂だって言ったよな……?」
「や、あれは」
「もしかして秋山くん、二人にも言ってないの? この辺で一番大きいチーム一人で潰した話は、事実だって」
「っ、佐津賀!」
挑発だと頭で理解はしていても、感情の昂りは、確かにある。
怒鳴ってから、これでは彼の思う壺だと思い直して、理性を冷ますように深く息を吸い込み、吐き出した。
「……ねぇ。今はそんなの、どうでもいいんじゃないの」
「……弥桃……、」
「…………へぇ」
「なに」
「いや、ね? 舘端くんも怒ることあるんだ、と思って。友達想いなんだね」
くすり、嘲笑う。
それが合図になったように、紗散は肩に掛かる黒髪を払い除け構えを取り、涓斗は掌に馴染んだあの三段警棒を握り、弥桃は傍に落ちていた廃材の細い木の棒を構え、腰を落とす。
そうしてその敵意を一身に受けた彼は、にっこりと微笑むのだ。
さぁ、争奪戦の始まりだ。
そう、心底愉快そうに。