童話少年-NOT YET KNOWN-


最初の一撃は紗散のものであることを予想していたかのように、握った拳は腕で防がれた。
そのまま受け流され、勢いでよろけ倒れ込んだ背中に、振り下ろされた右足。
しかしその脚を、涓斗の蹴りが鋭く弾く。
さほどの衝撃はなかったようで、それは雉世のバランスを崩すだけに留まった。

紗散が転がって横に避けたのを確認して、涓斗の警棒が風を切る。
護身用に貰ったと言っていたそれはなかなか丈夫で軽く、誰から貰ったのかは知らないが、すっかり愛用品と化しているようだ。

それでも、雉世は笑っていた。
無邪気に楽しむ子供のように、企みを隠し切れなかった大人のように。

そうして、紗散の二度目の拳と、涓斗の膝蹴りをうまく躱したところに、首になにかが当たる感覚で、雉世は不意に動きを止めた。
一瞬反応できずに、目線を下にずらせば、枝のような木材の切れ端が喉元に、確かにぴたりと突き付けられていたのだ。

先ほど雉世が自分で言ったように、紗散と涓斗は、決してなめてかかって無事でいられる相手ではないはずだった。
実力もあるし、好戦的な質に違わず場慣れしているのか、動きに無駄もない。
そんな二人を軽く流し、その上に余裕を持った態度でいられるほどに、雉世の動作はさらに精錬されていた。
しかしそれでも、その切っ先を目で追うことすら、追い付かなかったのだ。


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