童話少年-NOT YET KNOWN-



「…………弥桃?」

不意に立ち上がった弥桃に、涓斗が顔を上げた。
その声が聞こえているのかいないのか、彼は、先ほども覗き込んだ窓に近寄っていく。
硝子は爆発の衝撃で全て割れ、ちょうと夕陽が射し込まない工場内は、やはり闇のまま。
僅かな俊巡ののち、積んである木箱やドラム缶を足掛かりに窓枠に乗ると、少しの躊躇いもなく、体を中に滑り込ませた。

「え、ちょ、みど」

そうして、慌ててそこに駆け寄る2人に、きょろきょろと辺りを見回していた彼は中から振り向いて、言う。

「……いなくなった……」
「は……?」
「さっきの奴」

その言葉に、涓斗と紗散も覗き込み工場内を見渡すが、確かに、先ほどは緩慢な動作で蠢いていた黒い巨体は、見当たらない。
あの爆発に驚いて、逃げたのだろうか。

「何なの、あれ……つーか、それより、佐津賀の」
「あぁ…………、あれ。涓斗の伝説は……」
「それさっきお前が自分でどうでもいいって言ったじゃねーか……」

余りに衝撃的な出来事が多すぎて、パンクしてしまいそうな頭を抱えた。


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