童話少年-NOT YET KNOWN-



「まいどありがとね! 弥桃くん達にもよろしく言っておいて」
「はい。それじゃあ」

事の発端であった和菓子屋の戸口を、雉世は潜り抜けて外へ出た。
空が赤く染まってから日が沈むまでが、この季節はあまりにも短い。
そろそろ帰らないと、またあの人がねちっこく文句を言ってくるだろう。
そう思った雉世は、本当ならば近寄りたくもない、帰るべき場所への道程を急いだ。


自分の部屋に戻ると、机の上に無造作に置いた袋に、手を伸ばす。
何にも興味がないように見えたあの少年の、きっと唯一だろう関心事。
甘く香ばしい香りを放つそれを一つ楊枝に刺して、口に運んだ。

「……あま…………」

舌と喉にまとわりつく乾いた食感に顔を顰めると、ちょうど扉を躊躇いがちに叩く音。
開けば、確か今はここで最年少である少年が、恐る恐るこちらを見上げていた。

「なに?」
「あ、……えと、いんちょうせんせーが、よんで……」
「……わかった」

目を合わそうともしない少年に溜め息を一つ落とすと、思い立って、机に置かれたもう食べる気のしないきびだんごの箱を、俯く頭頂部に乗せて。

「あげる」
「え、……あ、ありが、とう」

慌てて顔上げた少年とようやく目が合い、雉世は安心させるように、いつもの穏やかな微笑みを見せた。
あの、笑っているようで全身が冷ややかな、微笑みを。



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