童話少年-NOT YET KNOWN-
彼のマイペースでのんびりした性格は、どうやら生まれつきだったようだ。
人と馴染むのが得意でなく、物心つく頃にはもう、孤児院でも浮いた存在になっていた。
そしてある日少年は、一大決心をする。
自分に名前がないのが親がいないせいだと幼心に考えたのだろうか、父と母を探しに行こうと、決めたのだ。
後から聞いた話では産みの母は病弱だったようで、実際その頃にはもう亡くなっていたらしいのだが、少年にそんなことがわかるはずもなかった。
外で遊ぶ子供がみんな屋内に入るおやつの時間、大人の目を盗んで垣根の間を潜り抜けた。
はじめて1人で外へ出た瞬間。
高揚した気分が、小さな足を早める。
向かうあてはない。
何か考えたわけでもなく真っ直ぐ前に進んで、最初の曲がり角では左に曲がった。
今考えてみれば、もしあそこで右に曲がっていたら、彼は今でもみーくんと呼ばれ、周りからは孤立していたのかもしれない。
そうしてしばらく歩いて少年は、自分が全く見たことのない道を歩いていることに気付いた。
大人が前後を歩いて、院の子供たち全員でする散歩でも、こんなところは歩いたことがないと、気付いたのだ。
子供にはありがちなことだが、ふと我に返って、とてつもない不安に一瞬で呑まれることがある。
戻るつもりなど持たずにきたのに、いざ帰り道がわからなくなると、もう自分はどこにも進めないような気に陥るのだ。
思わずしゃがみ込んだ。
頬の筋肉が引き攣って、嗚咽が漏れる。
その年頃の子には考えられないほどに感情が希薄だった彼でも、さすがに泣くときばかりは年相応で、火が点いたように声を上げはじめた。