童話少年-NOT YET KNOWN-
最近は会えば進学の話しかしてこない小柄な中年男性の言葉をほとんど全て聞き流しながら、雉世が考えるのは夕方の、あの時のことだ。
ただ単に面白そうだからという理由で仕掛けた争奪戦もそうだが、あの黒い影。
雉世には見覚えがあるのだ。
(怪物強盗の事件は、あの人が、糸を引いてる……)
実験中に研究員が“あれ”に大怪我を負わされてから、研究は中止になったと聞いていた。
あれから5年は優に経つ。
もうこの世には存在しないはずだ。
しかしあんなもの、見間違えるわけもないし、彼以外の誰かが産み出せるはずもない。
(……何が目的なんだ……?)
なぜ、古びた火薬工場なんかに現れたのか。
それを考えていたところで院長の話がようやく一段落ついたようで、その僅かな隙を逃さずに、軽い会釈を残して直ぐ様部屋を出る。
躱しそびれてだらだらと付き合うなんて、そんな間抜けな羽目に陥りたくはなかった。
夕食を食べるため、食堂の方へ体を向けた。
恐らく他の子供達は皆食べ終えた後だろう、口に出しこそしないが態度や目線であからさまに文句を表す用務員の顔が目に浮かぶ。
面倒だ、と、雉世は眉を顰めた。