童話少年-NOT YET KNOWN-
問題児と問題児と問題児と悪徳優等生のいる教室
「弥桃? 何してるの、学校に遅れちゃうわよぉ」
春休みが明けて、幾週かが過ぎた。
つまり、学年が一つ上がって、新しいクラスにも慣れるか慣れないか、という時期だ。
妙に間延びした、至極呑気な声に起こされる。
それに反応して時計を確認すれば、すでに本来起きるべき時刻を優に20分は過ぎていた。
まだ少し寝惚けたまま、それでも特に慌てるわけでもなく、制服を着込む。
かちゃり、と、不意に部屋の扉が開いたと思えば、そこに立つのは先ほどの声の主、すなわち彼の母親。
母親とはいっても、中学三年生にもなる息子がいるとは到底思えない若さなのだが、しかし戸籍上では二人はれっきとした親子である。
そして彼女もまた別に焦った様子も見せず、本当にそう思っているのかすら分からない調子で唇を尖らせた。
「もう、だめじゃない、ちゃんと起きなきゃ」
「んー……別にいいよ、遅刻しても」
曖昧に諭され曖昧に返す、こんなやる気の欠片すらない彼が、舘端 弥桃(たちばな みどう)。
「だめよォ、新学期になってから何回遅刻してると思ってるの? 弥桃のせいで先生ストレスでハゲたのよ?」
「あれは元々だよ、母さん」
「あら、そうなの?」
朝の忙しいはずの時間帯に親子が、しかも息子は寝坊して、切羽詰まっているべき状況でする話では明らかに、ない。
「そんなハゲのことより母さん、仕事は?」
「あ、忘れてた! やばー急がなきゃ!」
その一言に母親──桃恵は、思い出したようにばたばたと支度に走る。
彼女が奔走している間に弥桃は自分の用意もすべて済ませ、玄関へ向かい、そうして、未だ忙しく動き回る彼女に言った。
その言葉で、いつもと何ら変わりない彼の一日は始まるはずであった。
「行ってきまーす」