童話少年-NOT YET KNOWN-
物心ついたときには実の肉親はなく、ただいつのまにか、この世界を変えたがっていた1人の男が、生きるのに必要な物だけは与えてくれるようになっていた。
その男がテログループのリーダーだと知ったのは、小学校に通い始めて2年以上が経った時で、同時に、男が死んだことを知らされた時でもあった。
いつも彼が作っていたのが爆弾だったということも、家に大量にあって、絶対に勝手に触ってはいけないと言い含められていた物が火薬や爆薬の類だったということも、その時初めて知ったのだ。
彼の友人だと自称していた1人の男が実際は、無理な遺伝子実験で現実には存在しえない生き物を作り出そうとして、一度国家に追われかけた、狂科学者だということも。
育て親の友人達だと思っていたあまりに大勢の人間は全てテログループのメンバーや研究者だったのも、その内の誰かがある日突然姿を消したりする理由も、時折自分がほんの僅か手伝わされていた事柄が犯罪だったというのも、全て、全て。
何もかも、知らなすぎた。
そして何もかも、現実味に欠けた日常だったのだ。
頭が消えて死んだ組織は、すぐに壊滅した。
メンバーのほとんどは捕らえられ、難を逃れた者も主に海外に散り散りになった。
異常としか言えないあの研究はもちろんその時点で強制終了、火薬や武器も処分され、残ったのは記憶と知識と残党、そして実験結果だけ。
今や彼らの行方は知れるはずもないが、奇妙な強盗の話を聞いた時に雉世の脳裏に浮かんだのはその、育て親の友人だったのだ。
『キドウ』
彼がそう呼ばれていたのを、記憶している。