童話少年-NOT YET KNOWN-



「お前、友達が欲しいんならそう言えばいーのにー」
「別にそんなこと言ってないよ」
「あれ? さっき賭けだとか言ってたの誰かなぁー」
「……それとこれとは話が別でしょ」
「佐津賀……素直じゃないね」

中身の無いような会話をしたのは、生まれて初めての経験だ。
なぜかばつの悪い気持ちになるのも、人に憎まれ口を叩くのも、遠慮の欠片もなく小突かれるのも、そもそも、こんなふうに笑う顔を見るのも。
だけど擽ったいと言うのはどこか気恥ずかしくて、嫌だ。

「っしゃお前今からちーちゃんな」
「えー……それはイヤ」
「ちーぃちゃんっ」
「……だったら君けんちゃんでしょ」
「ぶは、ちょ、けんちゃん……!」

馬鹿笑いってこんなに品が無いものだったっけ、だとか、中学3年生ってもう少し落ち着いてるものじゃないっけ、だとか。
思っているうちに紗散と弥桃の爆笑に釣られたのか、雉世の顔にも自然と笑みが浮かんでいた。

「あは、あ、雉世の笑った顔初めてみた」

いつの間にか変わっていた呼び名に反応するのも忘れて、雉世はひとつふたつ、瞬きと共に一瞬、言葉を失う。
自分がいつでも柔和で穏やかに微笑んでいることは自覚していたし、人前で声を上げて笑ったことがないわけでもない。
それなのになぜそう言われたのか、わからなかったのだ。
ようやく発した声は、言葉尻の不思議そうな響きに自分でさえ気付くほどだった。

「……え、そんなことはない、と思うんだけど」
「や、俺初めて見たよ?」
「……嘘でしょ」

自分でもよく笑う方だと思ってたけど。
そう言うと、あぁ、と、声を上げたのは涓斗。

「あんなん笑ったうちに入んねぇよ」

当前のように言ってのけたのに、何が基準かは本人達でもわからないという。

「じゃあうちら雉世を笑わせた最初の人間じゃねー」
「ふは、雉世の初めて、貰っちゃいましたっ」
「涓斗きもい」
「、いい度胸だな桃ちゃんコラ」
「なんか、ほんと馬鹿だよね、君たち」
「ほう。誉め言葉として受け取ろうか」

目を細めて頷く紗散に、眉尻を下げた笑顔を返すと、“相応”を、思い出した気分だった。


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