童話少年-NOT YET KNOWN-
「雉世? どした?」
「……、え? あぁ、や、何でもないよ」
自分の顔が青褪めているかもしれないことは、容易に想像がついた。
それほどに寒気や、表情筋の引き攣りや、言葉でどう表したらいいか分からないような、焦りや恐れに似たものを感じていたのだ。
強いて言うなら戦慄、しかしそれは怖さよりもずっと身近で、他のなにかではなく自分に対する感情のようだった。
そんな表情で何でもないなどと、信じようがないことは自分で言った次の瞬間から悟っていたが、だからと言って他に言い様もない。
案の定、今度は涓斗だけでなく弥桃の目も、僅かに細められた。
「……雉世。なんか知ってんの」
「…………事件のこと? 何も知らないよ」
「じゃ質問変える。鬼が急に人を襲ったのは、何でだと雉世は思う」
質問などと、よく言ったものだ。
弥桃の、疑問を疑問形で尋ねない話し方にはもうそろそろ慣れたつもりでいたが、それが今はやけに痛く感じた。
「どうしてかな……“あれ”は、力の加減が下手だから。偶然じゃない?」
けれど、今は言えない。
その事実が彼らをどんなに危険へと導くか知っているからこそ、言えないのだ。
あの日──きびだんご争奪戦の翌日に廃工場で会った、それより以前だったなら、迷いなく告げていただろうに。
今ならまだ引き返せる。
「…………雉世。また、笑ってない」
苦笑いを溢した雉世に、弥桃は呟いた。
雉世は相変わらず、笑わない苦笑を浮かべるだけだった。