童話少年-NOT YET KNOWN-


「あとやっぱさー、そんな危険っぽい言い訳じゃ現実味に欠けるって」
「そっか。じゃあ例えば?」
「そーだな……。年上の彼女のつわりが酷くなっちゃって、とか、朝飯のタラバガニとウニに当たりました、とか」
「えー、突っ込みどころ多過ぎでしょ。」
「大丈夫だって、彼なら全てカバーしてくれるさ」

笑顔でびし、と親指を立てる紗散の言う彼とは、もちろん碓井のことである。
当の“彼”はといえば、人の話を聞かない2人に怒鳴り声を上げようとした瞬間、何者かによる襲撃を受けていた。

「ちょっと薄いセンセー、何でそんなとこに立ってんの。危ないじゃん。頭皮だいじょーぶ?」

飲食禁止の教室内でフルーツガムの甘い匂いをさせ、定番なビビッドカラーのパーカーの上に来た学生服はボタン全開。
それだけならばまだしも、両の耳に数個ずつのピアスを、最近はチョコブラウンの髪が僅かに隠している(最近は、というのは、よく気分で色が変わるからだ。先月は真っ赤だったし、その前は黒髪にカラフルなメッシュを入れることにハマっていた)。
そんな完全に教師も学校も規則も馬鹿にした、目付きの悪い少年が、突っ立って居た碓井ごと扉を蹴り開けたのだ。

仮にも担任の先生に向かって敬語のけの字も出てこないどころか、一番敏感であろうその言葉を何の躊躇いもなく吐くその少年──秋山 涓斗(あきやま けんと)の登場に、碓井の表情は、まだ1限目も始まらない内から疲れ果てていた。

「おーっす涓斗ー」
「今日は早いじゃん」
「おう弥桃、紗散。はよ」
「……お前らもういいから、せめて黙って席についてくれ、頼むから」

頼りない声色でそう言って、HRを再開したのだった。
そんな彼らの、日常ともいえるとある日。


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