童話少年-NOT YET KNOWN-
青褪めて、瞠目して、眉を寄せて、唇は震えて。
どうしようもなく怒りを発散させた後に妙に調子が狂った時の、そんな複雑な表情を雉世の顔で見られるとは、少し前の彼らは思ってもみなかっただろう。
そして紗散はといえば単純明解な彼女らしく、間抜けなことに、怒ったままきょとんとしていた。
「わざわざ危険を犯したいんじゃないよ。でも雉世がいるから」
「なん、で……弥桃までそんなこと」
「あんね、俺ね。意外と気つぇーの」
いつもと同じ、どことなく眠そうにしながら無表情の中僅かに口角を上げる、そんな仕草から、説得力などは感じられないが。
それでも雉世の昂りが一気に冷えていったのはそこに弥桃の本気が見えたからで、そしてそれは具体的にどことも言えないのに、確かに、あった。
「一緒に逃げるのも、一緒に守るのも手だと、思うけど。俺らには、向いてないでしょ」
一緒に戦う方が、足掻く方が、彼らの性には合っている、と。
要するに「意外と」も何もあまりに強気な弥桃に、相変わらず目を細めて苦笑いした涓斗と、阿呆面のままの紗散と、脱力感に襲われた雉世と。
ただのガキだけど、ただのガキだからこそ、できる反抗も反攻もある、らしい。
雉世は視線と萎んだ激情を泳がせて、大きく溜め息を吐いた。
「……はぁ、ほんと君達…………馬鹿じゃないの」
「馬鹿だよ。馬鹿だから、俺ら」
「……あぁもう、頭が痛い……」
一瞬前には茶化していても、怒り怒鳴るのは全力。
けれどまたいつの間にか、笑っている。
「あれだよあれ、……み、水」
「みみず?」
「ちげぇよ、……みずくさいって」
「なにそれ」
そんなんじゃあ結局自分も呆れたように笑っているしかないのだと、雉世は思った。