童話少年-NOT YET KNOWN-


よく歴史の授業、ちょうど明治維新やらの辺りで、当時の日本人が描いた外国人の肖像画というのが、教科書に載っていたりするだろう。
まるで人間ではないように描かれた、何とも言えない形相のそれ。

昔の日本人は平均身長が今よりだいぶ低く、肌は黄色で、目鼻立ちもあまりはっきりとしていない、薄めの顔付きの人が多かったのだろう。
だから背が高く体付きもがっしりとして、色白の赤ら顔で彫りの深い顔立ちの外国人が、あまりに恐ろしく見えたのだという。
それを大袈裟に表したものが、あの“鬼”のような肖像画なのだと。

「あれは、見たこともないようななりをしてる外国人を、元々あった伝承に重ねたんだと思うよ。桃太郎がいつ頃できた話なのかは、知らないけど」
「……あ! そっか、そうだよな。だって俺らが見た鬼、赤鬼とかじゃなくて、真っ黒で毛むくじゃらだった」
「あくまで架空の生き物だから、見た目とかは曖昧なんだろーな……遺伝子組み換え実験の結果が、ああなっただけで」
「たぶん、ね。それにしても“あれ”は狂暴性も身体能力も、常識を遥かに超えてる。今は鬼道の命令通りに動くように、なってるみたいだけど」
「……野良鬼、に、なったら」
「生態系を崩す、どころじゃなくなるだろうね」

雉世の話では、昔、もうかれこれ7、8年前に、あの鬼の原型を見たことがあるらしい。

その頃は、遺伝子組み換えを行った生物がようやくある程度の期間生き長らえられるようになったところで、その強大すぎる身体能力にどのくらい体がついていけるかの、検証中だったのか。
何とも不思議で不可解な生き物が、飼育されていたのだ。

“それ”は兎に角狂暴で、自制が利かず、力を持て余していた。
猿のような見た目をしているが固い毛はくまなく全身を覆い、牙や爪は肉食動物のそれに似ていて、そのわりに肉や果実や魚、何でも食べた。
知能は低いようで、何かが不愉快なのか気に入らないのか、時折混乱して暴れては、鋭い爪で自分の体を傷付けてしまうこともあったらしい。
そして免疫力や回復力は極端に低く、傷口から感染症にかかって死んでしまう個体が多かった。


< 52 / 135 >

この作品をシェア

pagetop