童話少年-NOT YET KNOWN-
“それ”の食事などの世話は、代わる代わる違う人間が行っていた。
万が一にも手懐けられて、利用されることのないためだ。
しかしあまりにも頭の悪く警戒心の強い“それ”に関して、そんなもの杞憂にすぎなかっただろう。
それを証明するようにある日、事件が起きた。
前日に“それ”の食事を運んだ男の一方の腕が、肩の下からすっかり無くなっていたのだ。
彼はよくその仕事を割り当てられており、週に最低2度は餌やりを任されていた。
グループには片腕や片足、片眼の無い者など少なくなかったから、さほど気に留めなかったという。
それ以上に、猫ほどの大きさしかない生き物に大の大人の腕が食い千切られたなどと、6歳か、7歳になったばかりの雉世に、想像できるはずもなかったのだ。
「腕!? そんな力あんのかよ……!」
「さすがに、丸ごと喰われたわけではないだろうけどね。でも、全く使い物にならないくらいには」
「うあーぐろい……」
「……口……でかいの」
「そーゆう問題じゃねぇだろ!」
眉を顰めて口許を覆う紗散の目線が、宙に浮いて、止まる。
彼女の心の動きは、全て眼に出るから分かりやすい。
一方、瞳にも表情にも仕草にも、何にも感情が表れない弥桃は、その視線の意味にいち早く気付いていた。