童話少年-NOT YET KNOWN-

緊急事態



秋山弥生は、慎重で聡明な彼女には珍しいことに、この日外出したことをとても後悔していた。
2日前には39度代まで上がった熱ももうだいぶ下がり、後は自然と回復するだろうと、学校へ向かったのだ。
それは、今年度が小学校最後の年だからと彼女なりの気合いの表れであったかもしれないし、新学期が始まって間もないというのに自分だけ同級生よりも出遅れた気がした、焦りが含まれていたかもしれない。

兎にも角にも、病み上がりの小さな身体にランドセルを背負って、亡き実父の妹夫婦に心配されながら出掛けた朝、弥生が無事に小学校へ辿り着くことはなかった。
ニュースで薄ぼんやりとしたシルエットだけは見たことのある、その黒い怪物が目の前に現れた時、風邪は治りかけが移るのだから今日明日は家で大人しくしていろ、と言った兄の忠告に従っていれば良かったと、心から思わざるを得なかったのだ。




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