童話少年-NOT YET KNOWN-
その電話は突然だった。
だからむしろ、用件が何であろうとけたたましさの変わることはないコール音が5回鳴り、母の握る受話器から聞き慣れた(というより、ついさっきも聞いたばかりの)声が飛び出した時、弥桃は特別驚くこともなかったのだ。
時刻は7時を回ったところである。
訝しげな桃恵に呼び止められて、弥桃は訝しげな表情を表には出さなかった。
「弥桃? 涓斗くんよ、何だか急いでるみたい」
「急いでる、って」
「何を言ってるかよくわからないのよ、涓斗らしくないくらい慌てて」
悪戯好きの涓斗だが、弥桃がその標的になったことは極端に少ない。
それは単に、弥桃が単純に引っ掛かることがなくて、面白くないからだ。
だから弥桃が、涓斗の言葉を疑ってかかることも普段ならば皆無だったのだが、この時ばかりは、思わずこう呟いてしまった。
「……は、なにそれ。嘘でしょ」
「嘘じゃねぇよ! こんな時に言ってる場合じゃねぇ!」
しかし涓斗の声色は、明らかに作ったものではない。
そして彼には珍しく、冷静さを取り落としてきた涓斗の言葉に弥桃は、彼には珍しく、戸惑いをあらわにした。
「…………どういうこと、それ」
「こっちが聞きてぇよ! どこ捜しても駄目で、あいつ、病み上がりなのに……」
電話口で怒鳴る涓斗の声は、初めて聞いたみたいだ。
「ヤヨイが、いなくなった……!!」