童話少年-NOT YET KNOWN-


放課後。
それは体育の授業以外で、紗散が一番元気になる時間帯である。

「うッし弥桃ー! 帰るかー」
「んー。今日は駅前の和菓子屋さんね」

凶暴さ短気さに関しては他の追随を許さないような紗散だが、実は甘い物に目がないという女の子らしい一面もあわせ持つ。
もっとも、『可愛らしい』『女の子らしい』などと面と向かって紗散に口走ったりしてしまった日には、彼女自身の照れ隠しによって人間として再起不能になること請け合いなのだが。

兎にも角にも今日は、同じくこちらも徹底的な甘党である弥桃とよく行く和菓子屋で個数限定の絶品和菓子が販売されるらしく、学校帰りに寄って行こうと数日前から楽しみにしていたようなのだ。
いそいそと教室を後にしようとする二人に、背後から声が掛けられた。

「あ、ちょっと待って。その店、ちょうど俺も行こーと思ってたんだ」
「あれ? 涓斗、甘い物苦手じゃん」

小学校から何の因果かずっと同じクラスで、自然と3人つるむことが多かった、弥桃と紗散と涓斗。
いわゆる幼馴染み、もしくは腐れ縁というやつだ。
性格も共通点は少ないように思える彼らだが、どこか波長が合うのか、家族ぐるみの付き合いはそろそろ9年目に突入しようとしていた。

「いや、俺じゃなくて。妹が風邪引いててさ。個数限定の、黍団子だっけ? どうしても食べたいって言うんだよ」

涓斗の妹、ヤヨイというのだが、彼女もまた甘い物が大好物だったりする。
小さい頃はよく4人で遊んだりもしたものだが、いかんせん体があまり丈夫ではないヤヨイは、いつからか弥桃達の遊びには付いて来られなくなっていた。

それなら売り切れないうちに行かなくてはと、早々に教室を出ようとしていた彼らだが、その場に残っていた大半のクラスメイト共々、不意に感じたいやな予感に動きを封じられた。
物理的には何を感じるはずもないのに、確実に在るといえる、静かな圧力。
その冷ややかな空気の出所を、彼らは皆知っているのだ。


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