童話少年-NOT YET KNOWN-
明けの嘲笑
12歳の少女が失踪してから、一夜が明けた。
秋山家、そしてそれに深く関わる数人の人間にとっては眠れなかった夜明けでも、他人には普段と変わりなく平々凡々とした日々の始まりに過ぎない。
近所の商店はいつも通り8時8分なんて中途半端な時間に開店するし、早朝に犬の散歩に行くあの人はいつも通り通勤ラッシュの前には家路に着いているし、背中より広いランドセルをかたかたと跳ねさせ走る小学生は、自分達の先輩にあたる女子児童が行方不明になったことなど知らないままに、寄り道しながらの登校だ。
そんな中、本来それが普通であるはずの光景に瞬間目を見張った学級委員長が、眉尻を下げた。
昨日の夜、弥桃からのメールで大体の事情は知っていた。
「あ、……おはよ、今日早いね涓斗。大丈夫?」
「大丈夫、じゃねぇわ、あんまり」
疲れた顔で無理に笑われても、痛々しいだけだ。
家では憔悴した叔母夫婦の周りを警察官が忙しなく動き回り、何の役にも立てないことが分かっている彼は手持ち無沙汰で、結局一睡もしないまま学校へ来たのだという。
そしてそれは、彼らも同じだった。
「弥桃、悪いな、付き合わせて」
「いやー。なんか俺も、落ち着かないし」
「紗散は寝てたけどな。」
「な! ね、寝てない! 寝てないよ!?」
ただ、こんな状況だからこそ、紗散のどこか抜けた明るさが、有り難い。
そしてそれを彼女自身も意識の至らないところで自覚しているようで、無理しているふうでもなく、極々自然に、いつも通りに振る舞っていた。