童話少年-NOT YET KNOWN-


「ねぇ……君達3人とも、今日の掃除当番だよね……?」

そして柔らかな声を発したのは、佐津賀 雉世(さつが ちよ)。
弥桃、紗散、涓斗という、学校きっての問題児が集められたこのクラスの、学級委員長である。

色素の薄い髪や肌のせいで、あまり明るいほうではなく、大人しく穏やかといった内向的な印象を与える少年。
実際その通りに真面目な優等生タイプかもしれない、少なくとも、大人の前では。

「ち、雉世……」
「そ、そーだっけ……?」
「……まさか、サボる気……?」

雉世は、困ったようにふわりと微笑む。
ただしその背後に滲み出るのは、常人よりもだいぶ図太い神経を持つ弥桃達でさえ怯むほどの、どす黒いオーラなのだ。

問題児すらもまとめあげる優秀な委員長としての彼の正体は、一種の暗示と無言の脅迫による独裁政治の指揮者、という訳である。

「別に、構わないよ? 今日1日くらい、僕が1人で教室を掃除すればいいだけの話だし。それが少し大変だったからって、僕が君達をどうこうするなんてわけ……ないもんね?」

そう言って眉尻を下げて笑えば、冷え冷えとした風が首筋を吹き抜ける錯覚すら起きる。
この微笑み方をした雉世に逆らうとどうなるか、一番思い知らされているのは彼ら同級生であるといっても過言ではない。

(の、……呪われる……!)
(の、呪い殺される……!)

表情までも目に見えて強張る彼らを愉しそうに一瞥して、雉世は、とどめを刺した。

「やだなぁもう。言っておくけど、僕には人を呪い殺したりできる力なんかないからね? ……それでも帰るっていうんなら、どーぞ」

『それでも』なんて、これはもはやどこに出しても恥ずかしくない立派な脅迫行為だ。

それすらやり兼ねないのが、雉世。
そしてそれをこの数週の間に身に沁みて理解したのが、彼ら。


それからは素早かった。

なぜかその場にいたクラスメイトも全員が掃除に参加し、その素晴らしい働きのおかげで教室は、わずか数分で埃の一塊すらなく綺麗に。
そして“あの”3人にきちんと掃除をさせた雉世に対する、先生方や保護者方の評判は、更に良くなったとか、どうとか。


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