童話少年-NOT YET KNOWN-

日本語は正しく発音してほしい




「涓斗の親さ、…………事故だったんだよ」

ぽつりと呟かれた声は、まだ少し鼻にかかっている。
いつもならば涓斗が送る帰り道、さすがに紗散は頑なに断って、それでもまだ危ないからと渋る彼を弥桃が、雉世と3人で帰るからと納得させたのだ。

元よりどこか心配性なところはあったが、ヤヨイの一件があって、過敏になるのも仕方のないことだろう。
もし夜道を1人で帰って紗散に何かあったら、きっと今度こそ彼の気は狂うに違いない、そんな気さえしていた。

「……そうなの?」
「そーなの。うちらがね、何歳の時だっけ?」
「んと……小1ぐらいじゃない」

彼ら3人とも親がいないのだとは、雉世にも話してあった。
だからこそ彼は、自分の境遇を悲観してばかりいるのは止そうと思えたのだ。

弥桃には、気付いたときにはもう肉親はいなかったらしい。
4歳まで孤児院で育って、桃恵に引き取られるまでは名前すらなかったと聞いていた。

しかし、雉世はどこか不自然さを感じて、眉を潜める。

「…………それって、両親……同時に?」
「うん。……おばさん夫婦に涓斗とヤヨイちゃん預けて、2人でドライブ行った時だって聞いてるけど」
「ブレーキの故障とか、言ってた」
「…………紗散の両親も」
「ん? うん、飛行機事故だよ」

雉世が思案するように目線を泳がせたのは一瞬のことで、すぐに訝しげな表情は掻き消える。
それは過った考えを悟らせないための仕草のようで、こちらを見ていなかった紗散に、それが気付かれることはなかった、が。


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