童話少年-NOT YET KNOWN-
雉世のいる孤児院はありがちに教会の裏手に位置するが、別に神父に面倒を見てもらっているわけでもなく、ボランティアとは名ばかりの市営施設だ。
それなりに広く設備も充実しているが、職員の愛想にもあまり思いやりがあるとはいえず、子供たちが孤独を感じるにはお誂え向きとさえ言えるほどだった。
それに比べて紗散が9歳から暮らす孤児院は個人経営で、小さく人数も少ないが、皆元気が良い。
紗散が親と暮らせないコンプレックスを感じずにいられたのは、ひとえにここの院長のおかげだろう。
「あ、じゃー俺はここで!」
「じゃーね、紗散」
「うん! 明日は放課後、部活サボって付き合うから」
「暗くなんないと探せないでしょ」
「いーのー!」
最後のそれはもうだいぶ離れたところからの叫びで、その余韻が消えたと同時に、小さな背中はもう扉を潜っていた。
姿が見えなくなると、途端に入り口辺りが騒がしくなったのが、十数メートル先からここまで聞こえる。
あの紗散のことだ、それはもう子供たちに慕われているのだろう。
紗散と別れて、教会への道を歩く。
弥桃と2人、話すことなど特にないことに雉世は今さら気付くが、わざわざ話題を探してあからさまに気を遣うのもなにか違う気がして、口を開くことはない。
弥桃も同じような考えで無言でいるのだとは、到底思えなかった。
それは彼がそんなふうに人に気を遣うことなどしないだろうと思ったからだが、先に沈黙を止めたのは、意外な問いかけだった。
「……雉世。なに、考えてるの」
またこの、疑問を疑問形で発音しない尋ね方。
雉世はこの話し方の持つ、どこか決定的で咎めるような響きがあまり得意ではなかった。
しかしそれは、弥桃がその質問の仕方を使うときに限って、雉世になにか疚しいところがあるからだと、今、気付いた。
「なにも。」
「嘘でしょ」
「嘘じゃないよ。……あぁ、……なにか話すことないかなぁ、とか」
「そうじゃない」
そしてそれに気付いたとき雉世は、その尋ね方をされて自分が、真意を話さずにいられたことなど一度も無いことも、気付くのだ。