童話少年-NOT YET KNOWN-


見たこともないような大柄な体。
闇にさえ映える黒い体毛には、茶色や灰、白いものが混じって、汚ならしいそれが迫力を増してみせた。

紗散の頭ほどもありそうな握り拳と、そこから覗く爪は、岩でもいとも簡単に抉ってみせそうである。
その手が器用に握って肩に担いだ袋には、今日強奪した金品かなにかが入っているのだろうか。
それを挟んで弥桃たちと反対側、遠巻きに伺う数人は、郵便局の制服を着ていた。

電球の切れかけた街灯と同じくらいの高さに、目がある。
血走っているのか、色素が薄いのか、それともこちらの目の錯覚なのか。
赤く光ってこちらを見る威圧感は、後ずさることさえ許さない。

誰かが息を呑む音が、雑踏の中聞こえるはずもないのに、聞こえた気がした。

まるで存在そのものが闇であるかのような黒の中、太く厳つい牙だけが、異様な毒気を放って白く鈍く、浮かび上がる。
触れられるどころか、近付いただけ、視線に入っただけで、身を裂かれそうだ。


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