童話少年-NOT YET KNOWN-



「目……な。っし、雉世」

涓斗が目を細める。
今のこれはきっと脳を高速回転しているときのそれなのだろう。
彼がいつでもそんなに不機嫌なわけではないのだと、雉世が気付いたのはごく最近のことだ。
お互いに、顔すら向けないまま無言で促す。

「俺が後ろに回ったら、顔の近くで爆破させてくれるか?」
「わかった」
「じゃ俺、紗散と2人で気引いとく」

確認のように目を見合わせて、走り出した。


今までは代わる代わる攻撃を仕掛けていた4人が、急に一度に散ったことに、戸惑いを覚えたのか。
どれを追おうか、迷っているようだ。
やはり知能の低さは顕著なようで、今は鬼道の命令に従うように調教されているだけらしい。

これは使える。
そう思った弥桃は、辺りにいくらでも転がる石ころや瓦礫を数個、頭上高くに放った。
1人だけ不審な動きをした弥桃に、鬼の気が引かれる。
しかし次の瞬間には、ばらばらと頭に降る石。
鬼の小さな頭脳では、やはり上からの攻撃としか考えが至らなかったようで、上空を見上げて相手を探している。

あまりにも容易に背後に回れた涓斗が、雉世に目配せを寄越す。
雉世は頷き、

──パァァアン!!

爆竹のような音の小爆弾は、涓斗の指示通り、鬼の顔のすぐ横で弾けた。
急なことに驚き、左目の痛みによろめいた鬼は、上からなのか下からなのか横からなのか前からなのか、標的を迷って忙しなく振り返る。

その隙をついて、涓斗が再び間接に攻撃を仕掛けるはずだった。
弥桃と紗散と雉世の役目は、何がなんでも鬼の注意を涓斗から逸らすことだったのだ。

しかし、何を思ったか、鬼は後ろを振り向いたのだ。


「────涓斗!!」

叫んだのは、紗散だったのか、雉世だったのか、それとも、自分だったのか、弥桃でさえ、わからなかった。


< 85 / 135 >

この作品をシェア

pagetop