童話少年-NOT YET KNOWN-
砂埃と、割れたガラスの破片が舞う。
なぜかきらきらしていて、こんな状況なのに、意外と綺麗だと思ってしまった。
白い爪が汚れている。
涓斗のお気に入りの黄緑のパーカーを引き裂いて、脇腹を抉ったそれの持ち主は、今ゆっくりと動いていた。
原型も留めていない古い段ボールや、誰かが捨てていった車のホイール、タイヤのない自転車、電球の欠片。
そんな中につっこんで力なく頭を垂れた涓斗を、影が覆う。
「涓斗っ……!!」
鬼がとどめを刺そうとしているのだと気付いたとき、弥桃は咄嗟に走り出していた。
鬼の間合いに入るのは危険だと、雉世にあんなに言われた忠告も、忘れていた。
軽い足音は、近くで聞こえるサイレンの下敷き。
手に持ったパイプの重みと持ち方を確かめて、凹んで潰れた方を先に、逆手で構える。
弥桃の目の高さがちょうど、鬼の巨体では異様に長い腕の肘のあたりだった。
腕を振りかぶって、爪を突き出して、仰向けに倒れ込んだ涓斗の体を、真っ二つにでもしようというのだろうか。
真っ白ではない、黄ばんだ爪にぬらりと光るそれが涓斗の血なのだとわかったとき、弥桃は、すでに埃っぽい地面を蹴っていた。
「みど、!」
「紗散! 待って」
や るなら、弥桃が や った次の瞬間だ。
それが何を意味するか、わからないはずがない狂気的な紗散は、雉世の猟奇さもなかなかのもんじゃないかと、嘲笑った。