童話少年-NOT YET KNOWN-
ヘンゼルとブレーメンとTOY'S FACTORY
真っ暗闇の中、コンクリートに落ちた赤黒いシミを探しながら歩くのは、容易なことではなかった。
ずっと下を向き続けていれば首だって痛くなるし、暗さに慣れた目でも絶えずうろうろとさ迷わせるのには神経を消耗する。
そのうえ、鬼の血かと思ってよく見ると油のシミだったり、補修後の色の違うアスファルトだったり。
街灯があれば濡れて照り返すそれを発見するのは簡単だが、鬼は切羽詰まっているのか本能的になのか、ほとんど直線を移動したようで、車も通れないような細い路地に血痕を見つけることもあった。
途中、懐中電灯くらい持ってればよかったね、と呟いたのは、声からして雉世だろうか。
当初の目的が、蛍光ビーズという暗闇でこそ探すのが容易いものだったからか、すっかり失念していたのだ。
その会話を最後に、しばらく4人の足音と息遣い、発見の合図しか聞こえなくなる。
先頭を行くのは一番視力の良い紗散で、次に雉世、弥桃と続いていた。
最後尾は涓斗である。
先ほどの怪我に体力を奪われたのかと一瞬心配したが、考えてみれば吹っ飛ばされたり転がされたりの回数や重度では、接近戦専門の紗散だって変わらない。
ダメージの程度は皆ほとんど同じなのだと思い直して、それでも弥桃は後ろの長身を振り返り、言った。
「涓斗、だいじょぶ」
「当たり前だろ」
昨日雉世に心配されたときには、苦笑いで「あまり」と答えていたのに対すると、目指すものが見えている分、足取りに迷いがないのかもしれない。
ともあれ問いかけから間を置かなかったその口調が本心からだとわかって、弥桃は前に向き直った。
大丈夫だ。