童話少年-NOT YET KNOWN-


どれぐらい歩いたのか、周りの景色も確認せずに急いでいた紗散の足が、不意にぴたりと止まった。
あれからはじめてと言っていい。

顔を上げて、前後左右を無防備に見渡す。

「紗散? どうしたの」
「……ここ……覚えてる」
「え?」

どうやら隣町の端まで来てしまったらしく、状況を確認してやっと、自分たちがもう1時間半ほどずっと歩き通しだったのだと知る。
工場や倉庫ばかりが立ち並んで、道路が少なく民家などほとんどないこの町は、弥桃たちが住む町に比べると3倍近くの広さがあるのだ。

そしてその無機質な町並みを眺めて紗散がぼんやりと呟いたのは、明らかにこの辺りをよく知っているふうな口振りだった。
この町に住んでいる人でさえ、近辺で仕事をしていない限りはほとんど立ち入ることのない区域にも関わらず、だ。


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