童話少年-NOT YET KNOWN-
『運命』という言葉のいかに平和的なことか
「紗散ん家の……!?」
「まだあったんだ……ここ」
赤茶けた表面をなぞれば、ざらざらと崩れる。
この看板が真新しくて綺麗だった頃は、まだ手の届かない高さにあって、窪みを辿って遊ぶなどしたことはなかった。
それが埃でくすんで曇って、看板がかかったときよりも大きな機械と沢山の人が忙しなく動いていた頃、紗散の両親の乗った飛行機は、海の真ん中に墜ちた。
太平洋で真っ二つになって、100人以上の乗客の中で助かった人間は1人もいない。
「この字……綺麗だった頃に、正面から見たかったなぁ……」
「………………紗散、」
思わず声をかけたのは、雉世だった。
先を急いでいるのだからそんな思い出を懐かしんでいる場合ではないと、そんなことを言いたいわけではない。
昨日、別れ際に弥桃に話したこと──憶測にすぎないが、ただの憶測というわけではない、そんな確信が彼のどこかにはあった──それが、なぜかやけに現実味を帯びてきた気がしたのだ。
実の親を全く知らずに育った自分。
両親からはほったらかしで、2人が同時に飛行機事故で亡くなったと聞いても、涙も流さなかった紗散。
幸せな生活から一変、自動車事故で幼い妹と2人きり残されて、今度はその妹も危機に晒されている涓斗。
生まれたばかりで養護施設の前に置き去りにされ、4歳で桃恵に引き取られるまでは名前もなく育った弥桃。
そんな境遇の4人がこうして出会って、ただの出会いでは終わらなかったこと。
なんの意味も理由もない偶然だと、どうして今さら言えるだろうか。
運命だなんて、平和呆けした馬鹿馬鹿しいことを言いたいのではない。
もしも、もしもこの関係が────、