ももいろ
「おう、そうだぞ。今日ライブハウスデビューしたんだ」

「へえ、そうなんですか!すげー、綺麗な人がいるなって思ってたんですよ。どうでしたか初ライブは」

整った顔をしたその男の子は、さわやかな笑顔であたしに感想を聞いてきた。

「すごく新鮮で、いろいろびっくりしました」

返事をしたら、それを皮切りに色んな人が周りに集まってきた。

…苦手だ、こういうの。

あたしはちゃんと笑えているんだろうか?

しばらく、どのバンドの誰とか自己紹介されたり、ビールをついだりつがれたりしていると、1番目に出ていたバンドのキーボードをしていた女の子が無邪気に聞いてきた。

「モデルさんみたいですよね。何のお仕事してるんですか?」

「…接客業です」

へえ、洋服屋さんとか?美容師さん?と他の人たちまで食いついてきてしまった。

めったに人の集まる場所に出ないあたしは、こういう時に使うべき適当な答えを用意していないから面食らった。

鶴田さんはお酌をしに来た男の子と話し込んでおり、助けを求めようにも気付いてくれなさそう。

あたしは笑顔を貼り付けたまま、どうしようか一瞬目を泳がせたら、サラダのお皿を持って横を通り過ぎようとした人と目が合った。

スーツから私服に着替えていたから一瞬わからなかったが、ライブハウスであたしにアンケートを渡してきた子だった。

司くんはそのまま立ち止まり、

「…書いてくれた?」

と無表情であたしに言った。

「えっ?」

「アンケート。打ち上げの時提出ねって言ったじゃん」

忘れてた。

周りにいた男の子が、

「司、すげー上から目線だなあ」

となぜか感心したように言うと司くんは、

「ああ、失礼」

と言ってあたしの隣にちょこんと座った。

「そういう意味じゃねーよ!」

と周りで爆笑が起きたが、司くんはわけがわからないといった顔をしている。

この子、天然?

そう思うとあたしもおかしくて、つい笑ってしまった。

「また、笑われた…」

「え?」

司くんはなんとなく恨めしそうにあたしを見て言った。

「さっきも笑われた」

ああ、そうだっけ。
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