ももいろ
「あっ、そうだ」

サツキさんは急に何かを思い出したようだ。

「?」

「司くん、彼女に怒られたりしない?一応あたし女だし、一緒に住んだりしたら」

一応?っていうか…今更それを聞くかなあ。

サツキさん、冷静そうだけど、意外と抜けてるのかな?

俺は思わず、

「彼女いないよ…プッ。フフフフフ」

笑ってしまった。

サツキさんは首をかしげて俺を見ている。

「司くんって…」

「何?」

「笑うと、すごく人懐っこい顔になるんだね…びっくり」

突然何を言い出すんだろうこの人は。面食らっている俺に、サツキさんは続けた。

「最初、なんとなく怖かったから…」

そうか。

「俺、人見知りするんだよ。怖かった?なら、ごめんね?」

俺はサツキさんの顔を覗き込んで謝ったけど、サツキさんは慌てて俺から目をそらし、うつむいてしまった。

まだ怖かったのかな…もっと笑顔で言った方がよかったかな?

「司くんって、大人っぽかったりアホみたいだったり、不思議な子だね」

アホって。ていうか…

「俺22歳なんですけど。大人の男に向かって、子はないでしょ」

俺は不服に思った。

子供扱いされたみたいで。あ、みたいじゃなくて、されたのか。

「22歳なんてまだまだ若いから子でいいの」

「サツキさんだって俺と変わんないくらいでしょ?なんだよ、お姉さんぶって」

住まいを提供してくれる人に向かって今の物言いは、ちょっとまずかったかな…と思ったけど、言っちゃったものは仕方がない。

ところが、サツキさんはあんまり気にしていない風で返事をした。

「お姉さんだよ。司くんより3つ上なんだから」

「3つなんて大したことないじゃん」

反論した俺に向かって、サツキさんはふふんと鼻を鳴らした。

「そうやってムキになっちゃうところが、まだまだ子供だね」

…!

確かに。そうかも。そうだな。そうだよ。

俺は図星をさされて、ちょっと凹んでしょぼくれた。

「あははっ、ごめん、可愛かったから意地悪しちゃった。気にしないで、司くん。とりあえず、部屋に荷物置いてきたら」

…そうします。

俺はすごすごと「司くんの部屋」と言われた部屋に引っ込んだ。
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