ももいろ
スタジオ練習が終わって、俺はサツキさんのマンションに帰ってきた。

2時か。

サツキさん、この時間は寝てるのかな…

俺はなるべく音を立てないように玄関を開けた。

リビングに行くと、サツキさんがスウェット姿でテレビを見ながら、お風呂上がりらしくタオルで頭をガシガシ拭いていた。

「あれ?おかえり」

不思議そうな顔で俺を見ている。

「ただいま。バイトがない日は、この時間に帰ってきます」

「あ、そうなの」

「っていうかサツキさん」

「はい?」

「そんな頭ガシガシ拭かない。髪痛む」

せっかくさらさらのストレートなのに。

「…」

サツキさんの顔には、大きなお世話だと書いてある。

…ような気がするけど、まあいいや。

俺は怒ってるんだよ。

サツキさんはソファの隅っこに体操座りしていたから、俺は反対の隅っこに座ってサツキさんを見た。

一言、もの申さなければと思ってたんだよ。

「あ、司くん!」

「…はい」

もの申したいんですけど。

まあいいや、聞いてあげよう。

「朝ご飯、ありがとう!すっごい、おいしかった。司くん、お料理上手だね」

「あ、おいしかった?」

「うん!」

満足していただけたみたいでよかった。

サツキさんがニコニコしているので、俺はちょっと嬉しくなった。

これからもっと腕をふるっちゃうよ?

「サツキさんって、いつ家にいていつご飯食べるの?」

「え?」

「ほら、献立とかいろいろ考えないと」

「…水、金、土が仕事」

なるほど。

「仕事の日は朝ご飯以外はお店で食べるから」

「お弁当は?」

「おべっ…」

サツキさんは目をまん丸にして驚いた後、激しく首を振った。

「いい、いい!そこまでしてくれな…」

そこまでしてくれなくていい、とか言う気?

と俺の顔に出てしまったのかどうかは知らないけど、サツキさんは途中で言葉を切って言い直した。

「あの、お客さんが持ってきてくれるし」

へえ、そうなんだ。

よくわかんないけど、そういうもんなんだ?
< 24 / 86 >

この作品をシェア

pagetop