ももいろ
何もかもいらつく客だけど、高いお金を払って遊びに来ていただいている以上、ある程度は満足していただかなくてはいけない。

あたしは限界に近いくらいむかついていたが、一通り仕事はこなそうとしていた。

ローションでぬるぬるに滑るから、さすがにおとなしくしているかと思いきや、その客はごそごそと動く。

「滑ってマットから落ちちゃいますよ?そんなに動くと危ないですよ」

あたしはやんわりと注意した。

「わかったわかった」

そう言って、あたしの体を触るのは諦めたが、その客はローションまみれの手であたしの顔を触ってきた。

…。

確かに体を売る仕事だが、首から上はなるべく触られたくない。

しかもベタベタ。

それでもあたしは我慢した。

客は、

「君は、髪をおろしてるほうが似合うよ」

そう言って、バレッタを外した。

ほどかれたあたしの髪は、ローションで濡れた。

糞野郎…湯船に沈めてやろうかと思ったが、我慢した。



風俗には、いろんな客がやってくる。

すっとろいことをされると、殺意を抱く。

風呂場の床にローションをまき散らしてやろうかと思う。

足滑らせてタイルに頭打ち付けろ!

イライラする。

でも、そんなイライラしてる自分にも、イライラする。

好きでやっている仕事ではない。

それでも、自分でやると決めたからやっている仕事だ。

ハイリスク、ハイリターン。

客を満足させるのが仕事。しっかりやらなきゃ。

と思う気持ちと、

なんでこんな変な仕事してるの?やりたくない。

と思う気持ち。

そんなに嫌なら辞めればいいのに。

お金がいいから辞められない。

そんなにお金必要?

お金は大切。

でもあんな仕事で稼いだお金なんていらない。

貯めて辞めたらいい。

辞めてあたしになにができるの?

何もしたいことなんてない。

あたしにできることなんてない。

考えるの、面倒くさい。

何もかも…生きているのも面倒くさい。

じゃあ死んでしまおうというテンションも理由もない。

好きでもない男と体を重ねる仕事。

あたしは汚い。

あたしは、汚れている。
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