ももいろ
司くんのギターを聴くのが、あたしの密かな楽しみになった。

司くん達のライブは、出会った日に見ただけだけどよく覚えてるから、思い出しながら聴いている。

ステージの司くんと、普段の司くんは、別人みたい。

大人っぽくてあんまり喋らなさそうなイメージの司くんと。

プリプリしながら文句を言ってくる小姑みたいな司くん。

ギャップがおかしくて、あたしは一人で笑ってしまう。


司くんがキッチンで料理しているとき、菜箸を振りながら鼻歌を歌っている時は、作曲モードらしい。

「ふ、ふ、ふん~。いや。ふふ、ふ~?よし」

そのまま自分の部屋に駆け込んで、パソコンをいじりはじめたりしている。

いつもはすぐに部屋を出てきて料理を再開しているけど、一度、そのまま作曲に熱中してしまったらしく、珍しく料理を失敗していた。

「ああ、もう俺!家政夫失格!」

と頭を抱えていた。

「司くん、バンドが本業なんだからさ。そんなに気合い入れて家政夫してくれなくて、いいよ」

あたしは思ったことを言った。

元々、ここまでやってくれるなんて期待してなかったから、家政夫っぷりが完璧すぎてこっちが申し訳なくなる。

なのに、司くんは、

「イヤです。俺、ここにいる間は家政夫だから!」

だって。


毎日いきいきと忙しそうにしている司くん。

たまに暗い顔をしていたり、ギターの音が聞こえて来ない日もあるけれど、次の日にはケロリとしている。

きっと、大変なこともたくさんあるだろうに、彼は自分でなんとか整理できるタイプなんだろう。

やりたいことがあって。

それに向かってがんばっていて。

あたしとは正反対だ。

…比べること自体、間違ってるよね。

自分のダメさ加減や無意味さを思い知らされるから、司くんと一緒にいるのは、あたしにとってはつらくなってきた。

それでも、早くおうちを見つけて出て行って欲しいとは、思わない。
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