ももいろ
あたし、本当によくわからないんだけど、大丈夫なのかな?

でも、夜までにはきっとお酒も抜けているだろうし、たまには知らない世界を覗いてみるのもいいかもしれない。

そう思うと少し楽しみになってきた。

何かを楽しみにするのって、どれくらいぶりだろう。

鶴田さんは今日も130分の時間を他愛のないおしゃべりに費やして、

「じゃあ、待ってるからな。ちゃんと酔いさましてくるんだぞ」

と、笑顔で帰って行った。



あたしは店を出た後一旦家に帰って仮眠を取り、熱いシャワーを浴びた。

おかげで、お酒はほとんど抜けた。

おなかが空いたのでスープを作り、鶴田さんにもらったパンと一緒に食べた。

指定されたのは19時。

マンションを出た時、軽く身震いした。5月でも、夜はまだ肌寒い。

あたしはショールを胸元でかき合わせ、メールで送ってもらった地図を頼りにライブハウスに向かった。

目的地は大通りに面した場所で、すぐにわかった。

でも、どこから入るんだろう?なんて言って入るんだろう?チケットとか、ないし。

入り口で逡巡していたら、

「サツキちゃん!」

鶴田さんが中から出てきてくれた。

「こんばんは鶴田さん。きちゃった」

鶴田さんはあたしを見て目を細めた。

「サツキちゃん、お店のドレス姿しか見たことないけど、私服もやっぱり可愛いな。深窓のお嬢様ってかんじだ」

「あはは。褒めてくれても何も出ないよ」

「いや、本当に。さ、もうすぐ始まるから中に入ろう。今日は5つ出るんだ。姫のお気に召すバンドがあればよろしいんですが」



ライブハウスの中は、狭くて煙くて暗い。

ちらほら人が集まっているという感じ。こんなもんなの?

もっと、わさわさした感じを想像していたんだけど。

鶴田さんはあたしをドリンクカウンターに連れて行き、スタッフの女の子に

「この子俺の知り合いだから。フリーで飲ませてあげて、あ、でも絡み酒みたいだから飲ませすぎないで」

と冗談っぽく言った。

「やだあ!すごい綺麗な人!何?オーナー、不倫ですか!?奥さんに言いつけますよ!」

カウンター越しにまじまじと見つめられ、あたしは恥ずかしくなった。
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