ももいろ

【バンドマン・1】

「久しぶり!」

「小雪!」

あたしは久々に小雪と会った。

いつもの喫茶店で、今日はカウンター席。

小雪はすごく元気で、顔を見るだけであたしはずいぶん気が晴れた。

どろどろもやもやした気持ちが、小雪と一緒にいるとくだらない事のように思える。

「あんた最近、出勤多いね、どうした?」

ウチの店はインターネットでプロフィールや出勤を掲載している。

小雪はそれを見たのだろう、心配してくれている。

あたしはそれだけで嬉しくなった。

会ってなくても、気にしてくれてたんだなってわかったから。

「ちょっと…しんどくて」

「?しんどいと出勤増やすわけ?仕事がしんどいんじゃなくて?」

「うーん」

何から話したらいいんだろう。

マスターがカップをあたしたちに出しながら、言った。

「あれ?今は彼氏と同棲で楽しいんじゃないですか?」

!?

彼氏!?

小雪は目をまん丸にして驚いている。

「ええ!?いつの間に!?」

「違っ…マスター!?」

マスターはいたずらっぽく笑った。

「この前、楽しそうに話してくれた彼と、うまくいってないんですか?」

「彼って!あたし、男とか言ったっけ…」

「いいえ。ただ、アイツとか言ってたから男の子かなと思っただけです。違いました?」

合ってますけど…。

マスター、小雪と一緒の時は、結構ずけずけ物を言うんだよね。

「なによ?詳しく話しなさいよ」

小雪にせっつかれて、あたしは説明した。

「ふーん…。バンドやってる男の子、か」

男の子、て言うと司くん、怒りそうだな…あたしはふふっと笑った。

小雪はそんなあたしをまじまじと見つめて言った。

「ほんと、楽しそうだね」

「いやぁー」

「そんで、なんで出勤が増えるわけ?別にたかられてるわけでもないのに」

「うん…」

マスターもうなずいている。

「真面目な子ですよね。いい子じゃないですか。僕がその子の立場だったら、思いっきりお金の面で頼りますよ」

「そうだよね、普通そうするよ」

「そんな困ってる風には…見えないし」

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