ももいろ
小雪さんのケータイが一瞬鳴った。

「あ、ダー下についたみたい。帰るね」

そう言ってバッグを持って帰り支度をはじめた。

「僕、下まで送ります」

「あたしも…」

「いや、桃花はいいよ。司クン、ちょっとコウジに挨拶だけしてあげてくんない?」

「ハイ」

小雪さんは、サツキさんにもそもそと内緒話をして、にやりと笑った。

サツキさんは赤くなっている。

あんな顔するんだな。

何言われたんだろ。

「じゃ、司クン借りるよ。行こ」

「ハイ。じゃね、サツキさん。ちゃんと、鍵してよ」

「…」

「ちょっとだから大丈夫とか思ってないでしょうね?」

「します」

「よし。ピンポンするから、ちゃんと確認してから開けてね?じゃ、いってきます」

「いってらっしゃい」



エレベーターの中で、小雪さんに尋ねた。

「サツキさんとおつきあい長いんですか?」

「うん。桃花が風俗入ってからすぐだから、5年になるかな」

「そうですか。仲いいんですね」

小雪さんは俺の顔を真剣なまなざしで見つめて、言った。

「司クン。あの子、強がってるけど…」

うん。

小雪さんが途中で言葉を切ったので、俺は続けた。

「寂しがりですよね。結構子供だし。ズレてるし」

「ふふ、そう、ズレてる」

あたしは、弘司っていう心の支えができたから、社会復帰できたけど、あの子はタイミングもやる気もなくしてるみたいだから…と、小雪さんは聞こえるか聞こえないかくらいの声で続けた。

社会復帰って。

「風俗だって、立派な仕事だと思いますけど」

れっきとした社会人でしょ。

小雪さんはちょっと残念そうな表情で俺に言った。

「それは、きれい事だよ司クン」

「そう、ですか?」

「そう。ま、わかんないか」

「わかんないです…すいません」

「いい子だね司クン」

子って。

俺はちょっとふくれてしまった。

「ごめん、ごめん」

少し笑ってから、小雪さんは真面目な顔になって俺に言った。

「桃花のこと、よろしく…していい?」

俺は断言した。

「桃花さんは、俺が、責任持って面倒見ます」



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