ももいろ
俺は熱めのシャワーを浴びながら、さっきのことを反省した。

あんなに興奮することでも、なかったのかもしれない。

谷川、殴っちゃって悪かったな。


太田は、俺と谷川のバンドに対する考えの違いを、前からいつか喧嘩になるとは思ってたみたい。

俺も、たまに何か違うと思っていたけど、今日、それが表面に出てしまった。


今日もスタジオに入ってたんだけど、あまりにも谷川がレコード会社の人を意識した発言ばっかりするから、俺は苛ついて言っちゃったんだ。

「ただ見に来るだけだろ?大体、そんなうまくいくわけないじゃん」

「何言ってんだよ司。脈があるから見にくるんじゃん」

「脈って。あってもなくても、俺今はメジャーデビューとか興味ないから」

谷川は思いっきり目を見開いて驚いていた。

「何言ってんのおまえ!?だったら、なんのためにバンドやってんだよ!?」

「なんのためって。音楽やるため」

まだ何の実績もない俺たちが、メジャーデビューとかありえないし、万が一今の状態でそういう話が来たとして、うまくやっていけるわけない。

他人に曲を作ってもらったりなんてまっぴらだから、まず、バンドとしてしっかりとした土台を作ってからそういうことは考えたい。

俺は思っていることを谷川に説明した。

「馬鹿だなお前!」

谷川は呆れたように言い捨てた。

馬鹿って。

「なにがだよ」

「とりあえず、どんな状態であれ、そういう業界にもぐりこんじゃえばこっちのもんだよ!」

もぐりこむ?

「俺も、太田も、司も。音楽で飯が食っていきたいわけだろ?一回デビューしちゃえば、その後成功しても失敗しても、コネとかできるわけじゃん!」

失敗?

「ダメだったとしてもさ、一回でも名前が全国に知れてたらさ、その後バンド組むなりスタジオミュージシャンになるなりするときも、やりやす…」

俺は谷川を殴っていた。

「おまえ、失敗前提なのかよ?」

「司!」

太田が止めに入ったけど、もう俺は我慢できなかった。
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