ももいろ
見た感じは普通の男の子や女の子が、一生懸命演奏している。

ライブって、日常とはかけ離れたような衣装を着てギラギラなかんじなのかなって思っていたけど違ったみたい。

音楽のジャンルによるのかな?

そんなことを考えながら、ぼんやりと鶴田さんから聞いた話を思い出していた。

「バンドやるには金と時間がかかるんだ。あいつらは、寝る間も惜しんでいろんなことがんばってる。才能だけじゃダメだ。よっぽどの情熱がないとできないんだよ音楽は」

音楽をわかっていないあたしだからかもしれないけれど、曲自体はどこかで聞いたことがあるものの平均値出しました、というもののように感じた。

でも、ステージでがんばってる彼らは、すごく輝いていて…楽しそうで。

一つのものを一緒に作り上げている充実感や、曲に込めた思い、観客を楽しませようっていう前向きさがあたしにとっては気恥ずかしかった。

ライブに来ているお客さんも、本当に楽しそうで、嬉しそうで、みんな笑顔だ。

あたしなんかが見てていいのかな。

あたしなんかがこんなところにいていいのかな。

何も考えず何の努力もせず、何も感じないで、日々過ごしている自分は、この場所に似つかわしくないように思えてきた。

帰ろうかな…

すごすごと出口に向かおうとしたら、カウンターの女の子が声をかけてきた。

「サツキさん!トイレ逆ですよお」

「違うの、帰ろうかなって」

「ええ!?帰っちゃうんですか?あと1バンドで終わりですよ、せっかくだから見てってくださいよお!」

あんまり大きい声で話すから、あたしはカウンターに近づいた。

「はい、サツキさんカシスオレンジどうぞ~」

「ありがとう」

にこやかに差し出されたから、思わず受け取ってしまった。

「最後のバンド、オーナーが大プッシュしてて。あたしも好きなんですよ。実力もルックスも抜群なんです。3ピースなんですけど、シンプルになりすぎてなくて音がゴージャスなんです」

「へぇ」

相づちを打ったけど、あたしは見ても多分わからないような気がする。

カシスオレンジをいただいたら帰ろうと思っていたら、

フロアの照明が落ちて、最後のバンドのステージが始まった。

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