ももいろ
「…。ぅえーっと。あのー。開演、遅れてスイマセン。谷川のタマの話が長引いて…」

「また言い訳かよ!ていうか俺のせいか?本番前のタマ話は俺らの恒例行事だろ?おまえのコイバナが余分だったんだよ!」

「げ!別にコイバナなんかしてないだろ!?」

「いーや、あれはそーだ。なっ、太田!」

「どちらかと言えば、コイバナ寄りだったなぁ」

「太田までっ!」

三人のやりとりに、お客さんたちは思い思いの突っ込みを入れたり笑ったりしている。


司くん…恋の話するんだ…好きな人、いるんだ。


いないほうが不思議だよね。


考えたことなかったな。

あたし、司くんのこと、なんにも知らないんだなぁ。


少し凹んでいたら、

「コイバナ、コイバナ…何か思い出しませんかコイバナ。はい、次の曲、『濃い闇に咲く花』です」

と谷川くんが曲紹介をして、演奏が始まった。

イントロの、司くんの整ったギター。

これ、一番練習してたやつだ。

ベースとドラムが重なると、激しさが増してすごく男っぽい曲だったんだとわかる。

あたしは凹んだのを忘れて、曲に引き込まれていった。

数曲演奏すると、フロアには立ってるだけで汗ばむほどの熱気がたちこめた。

前見た時はここまでじゃなかったのに、やっぱりワンマンだと盛り上がりが違うものなのかな。



演奏とは裏腹にボケボケなMCをする三人をまったり見ていたら、隣で女の子たちが囁きあってるのが聞こえてきた。

「さっきのはさ、ただの前フリだよー。司がコイバナなんてするわけないよー」

「そうかなぁ。でももてそうだし、やっぱ彼女とかいるよねぇ」

「忙しいからいないよきっと!そゆことにしとこ!」

「そだね!あー、司、今日アンケートとか配るのかな?物販、出てきてくれるかなぁ?」

「ワンマンだからわかんないねー。あたし谷川くんと喋りたいな!覚えてくれてるかな」

キャッキャと楽しそうにしている。

あたしは少し驚いた。

こういうファンは、アイドルにしかいないのかなって思ってたから…



少し、司くんを遠く感じた。

…もともと、別世界の人なんだけどさ。
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