ももいろ
いちいち暗くなりそうな面倒臭いあたしの気分を、

TKOの演奏はことごとく吹き飛ばしてくれた。

楽しい。

もっと見たい。

そう思った。



ヘッドホン使わなくていいよ、て言ってから聞こえるようになった司くんのギターの音が素敵で、

司くんに、なんていうジャンルなの?て聞いたことがある。

「俺らがやってんのは古くさいロック。目指してるのは、渋い男ロック」

へー。

と興味ないフリをしたけど、改めて思う、あたし、司くん達の音がすごく好き。


その後、司くんは言ってたっけ。

「でもねサツキさん?音楽をカテゴライズするなんて、クールじゃないから。楽しめたらそれでOKさ」


司くんは洋楽の雑誌を読んだ後、ちょくちょくおかしな喋り方をする。

MCでやったら面白いんじゃない?

今度なってたら、言ってみようかな。

あんまり口出ししたら、興味ありますってバレちゃうかな…。



気が付くと、ライブは終わり、フロアの照明がついていた。

やばい…

お客さんの声に応えて、三人がまたステージに出てきて、あいさつをしている。


あたしはこっそりとライブハウスを出た。



汗ばんだ状態で外にいると、少し冷える。

体と同時に、頭も冷えてきて、ライブ中凹んだりしたことを思い出した。



やだなぁあたしのこういうところ。



せっかく、楽しかったのになぁ。



あたしは落ち込みそうな自分を励ました。

司くん、かっこよかったな。

家で待ってたら、帰ってきてくれる。

たまにはあたしが何か…おつまみでも作ってみようかな。

あたしは小雪に、先に帰る、今度ゆっくりお喋りしよう!とメールした。



せっかくだから、楽しもう。

司くんが家にいる間、この久しぶりの片思いを。

お別れしたら、堂々とライブに行ったりしよう。



司くんが音楽をしてる限り、あたしは司くんを見失わなくていい。



いっぱい応援できるから、悲しくない、寂しくない。



この時は本気で、そう思っていた。




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