ももいろ
「ちょ…頭大丈夫!?」

俺はサツキさんを引き剥がそうとしたけど、耳に息を吹き掛けられ、

「うわ!くすぐったい!」

力が抜けて引っ繰り返ってしまった。

これじゃあ、サツキさんに押し倒されたみたい。

男なのに…屈辱。


て、そーじゃなくて!


どうしちゃったのこの人は!

サツキさんはますます俺に密着してくる。

やばいってコレ!

サツキさんは耳元で囁く。

「司くん…」

わわわわわ

「固いの…」

ブー!

ちょ、何言って…やめ、やめ、やめめめめ

「いっぱい煮たのに、ガリっていうの…」



…はい?



「おいしく作って…司くん、驚かせようと思ったのに…失敗した」

「ああ、肉じゃが」

ウッ…今、別の意味で驚いたよ。

度胆抜かれた。

サツキさんは俺にしがみついたままおとなしくなった。

寝ちゃったかな?

安心して油断したところに、

「冷たっ!」

首筋に何か落ちてきた。

「グスン」

サツキさん…泣いてる?

ああ、そうだ。

今日俺、ホストの代わりなんだった。

サツキさん、お酒は飲み干したけど、ホストに行かずに俺を待っててくれたんだし、大人にならなきゃ。

がんばれ俺。

「サツキさん、とりあえず座ろうか」

サツキさんの背中を優しくぽんぽんとしたら、素直に俺から離れてソファに腰掛けた。

隣に座って、涙を拭いてあげたけど…

あーあ、ひどい顔だね。

俺はきつくならないように、尋ねてみた。

「どうしたの?」

「…何が」

何もかもだよ!

なんて怒ったらいけない。

酔っ払いを刺激したらいけない。

「なんでこんなに酔っ払うまで飲んじゃったの?俺も一緒に飲みたかったよ?サツキさんの作った肉じゃがつまみながらさ」

サツキさんはうなだれて言った。

「最初は、楽しかったの。お祝いしようって。お料理しようって」

「お祝い??」

「初ワンマン成功の。あっ、見てないけど!絶対うまくいくって、思ってたから」

そうなのか、俺少し嬉しい。

「ありがと、サツキさん。それで?」

「…黙秘します」

…なんだ、それ。
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