ももいろ
「失礼しまーす…」

ずいぶん経ってから、司くんがバスルームに入ってきた。

湯槽に浸かりながらあたしは聞いた。

「なんで服着てお風呂?」

司くんは、上は裸だったけど、ジーンズを膝までまくりあげた格好だった。

「俺、背中流すだけだし。ほら、サツキさん早く出てきて!酔ってのぼせるの、よくない!」

待たされている間、意地悪気分がMAXになっていたあたしは、

「服濡れちゃうから脱げばぁ?」

とお湯に浸かったままぶっきらぼうに言った。

司くんはスポンジで泡を作りながら、

「いいの。そろそろ洗おうと思ってたとこだから。俺、こいつ洗うときははいたままお風呂で洗うし、ちょうどいい」

とこっちを見ずに答えた。


ふぅーん。


「ほら、早く!」

…なんか、いつもの司くんだね。

さっきまではイライラするような百面相だったのに。

「さっさと洗ってさっさと出るよ!酔っ払い!」

…。

「早く!」

あたしはだんだん素に戻ってきた。

「ごめんなさい、結構です…」

「はぁっ!?」

司くんがすごい勢いでこっちを見たから、あたしはお湯に顔半分までもぐった。

「ブクブクブク…」

「何っ!?」

「恥ずかしい…」

司くんは鼻白んだ様子で言った。

「さっきまでの勢いはどーこ行っちゃったわけ?サツキさぁん」

あ、司くん、怒ってる?

「背中流せ!流せ!て言ってきたじゃん」

バサッ

バスタオルが飛んできた。

「それ巻いとけば恥ずかしくないでしょ?」

「司くん…いいって」

「よくない!自分の発言には責任持ってよね!俺は持つよ!だから流す!」

なんで変にムキになってるんだろう司くん。

「忘れてたくせに…」

「思い出したから!ほら早く!」

司くんはそう言ってあたしから顔を背けた。

バスタオル巻いて出ろってことね…

でも巻いたら背中洗えないよね。

考えた末、腰に巻いて、司くんに背中を向けて椅子に座った。

「ぎょ。腰にタオルって、あなたオッサン!?」

「うるさいなぁ!背中出しとかないと流せないでしょ?は、早くしてよ!」

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