ももいろ
「うー、わかったよ!サツキさん、体、振り向かないでよ!?」

「む、向かないよ!」

裸になるのなんて、慣れすぎてなんとも思わないはずなのに。

司くんを変に意識しちゃって、あたし今、すごく恥ずかしい。



…。



大声出してたのとは違って、司くんはすごく優しくあたしの背中をスポンジで撫でた。

「うあー、気持ちイイかも」

「プッ、本当にオッサンみたい」

「あはは。そう?……司くん…ごめんね」

なんだかんだ言って優しい司くんに、あたしはすっかり毒気を抜かれてしまった。

「いいよ。俺もごめんね」

…。

「司くんが謝らないでよ、あたし…」

言いかけると、司くんは言葉をかぶせてきた。

「サツキさんさぁ、汚くないから」

…。

「仕事のせいでそんな気持ちになっちゃうなら、俺が洗ってあげるから」

…。

「だから、大丈夫だよ」

司くんは一生懸命背中を洗いながら、喋っている。

どうして?

「司くん」

「何?」

「どうしてそんなに、優しくしてくれるの?」

司くんは、さっきまでの優しい声と変わって、ケロリとして答えた。

「どうしてって。俺もともと優しいもん」

「あはは、自分で言った」

司くんはヨシヨシとあたしの頭を撫でた。

「よし、サツキさん笑った。あ、ごめん。頭に泡つけちゃった」

司くんはシャワーで自分の泡を落としはじめ、

「もう俺無理。限界。あとは自分で洗ってください」

とバスルームから出ていった。



よくわかんないけど…



あたしは彼を、誘いそこねたわけだけど…




よかった失敗して。




今まで通り、一緒にいられるから。



司くん、ありがとう。



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