TIME
里田の奴、勝手な思い込みをしやがって
だいたい好きならもっとドキドキしたりするもんだろ?
「俺の場合それがないんだよな」
そうなのだ、八城に対する気持ちは
例えるなら腕が取れそうな人形…
一見ちゃんとした人形に見えるけれどいざ触ってみると腕が取れそうで
それでも無理して人形はそこに立っている…って感じなのかな
壊れてしまいそうな人形を見る不安からついつい気にしてしまう。
そう思いながらかなり失礼な例え方をしている自分に少し嫌悪感を覚える
「言葉って難しいな」
「難しくないぞ高志、お客様がご来店したらいらっしゃいませって言えばいいだけだからな」
ふと気付けば横に先輩が立っていた。
「高志…あのな、3人もお客さんが入ってきてるんだから挨拶を忘れんなよ」
「高志は俺を休ませないつもりか?」
やばい、先輩が怒っている
この人優しいけど仕事に関すると怖いんだよな…
「すみません、先輩」
俺は素直に謝る
「今は笑顔で頼むよ叱ってちゃお客さんに迷惑だから」
あぁ、後で怒られるパターンだ
しかしここで不満顔をするわけにはいかない
俺はむりやり笑顔を捻り出してなるべく元気よく返事をした
先輩はやっと休めるとぼやきながらバックルームに引っ込んで行った
あの人自分が休みたいから俺を同じシフトに入れるんじゃないだろうか
ふとそんな考えが頭に浮かんだ