蜜林檎 *Ⅱ*
汚れることなく綺麗な状態の
レコード。
 
ジャケットに書かれている
デビュー当初の、不慣れな
サインに、彼は見覚えがある。

そう、これはデビューしてすぐ
百合にサインを強請られて
照れながら書いてあげたもの
だった。

「ユリちゃんへって書く?」

「書いちゃだめだよ
 将来、売れなくなるもん」

そんな冗談を言って、二人で
笑い合った日が昨日の事の
ように浮かぶ。

レコードの下に置かれた写真集
ライブのパンフレット・・・

その一番下に、百合から
杏に宛てたメッセージカードが
置かれていた。

『アンへ、23歳の
 お誕生日おめでとう
 
 いつか、アンに渡して
 あげようと思っていたものを
 まとめてプレゼントします
 
 全部あげる・・・
 どれもレア物だよ
 
 お姉ちゃんより』

樹は微笑んだ後、杏の誕生日が
いつなのか・・・

とても気になる。
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