蜜林檎 *Ⅱ*
千里は手を振り、皆の姿は
角を曲がり見えなくなる・・・
 
雅也は、その事に何も触れずに
店内へ入って行った。

「俺、何か言ったの?」

「あれだけ飲んで憶えてる訳
 無いかぁ
 だったらもう一回、素面で
 言ってもらわなくちゃ」
  
杏は微笑んで、部屋へと
入って行く。
   
樹は、思い出そうとすれば
する程に、ひどい頭痛
二日酔いに襲われるのだった。
 
ここは病院
小さなベッドに眠る
昨日産まれたばかりの
百合の赤ちゃんを
ガラス越しに見つめる杏と樹。
   
小さな手が、堪らなく
可愛らしい。
   
ずっと、見ていても飽きない
その可愛さに、樹の顔が
優しく微笑んだ。

「そうだ、杏の誕生日って
 いつなの?」

「今月の15日」

「明後日か、その日は
 撮影があるかも・・・
 でも、夜には帰れるから
 何か食べに行こうか」

樹の言葉に喜ぶ杏の手に
彼は優しく触れた。
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