蜜林檎 *Ⅱ*
「イッキと付き合う前の私は
 お父さんも知っているように
 あの家から一日も早く出て
 行きたかった
   
 あそこには、私の居場所
 なんてなかったから・・・」
  
自分を捨てた母親への恨みにも
似た思いと雅也に対する怒りに
百合の心は押しつぶされそう
だった。

「ずっと、息苦しかった・・」

「ユリ、おまえには
 本当にすまない事をしたと
 思っている」

「お父さん、そんな私が
 どうして今もあそこにいる
 と思う
   
 イッキとの別れがあって
 レツを失って、途方に暮れた
 私を一生懸命に支えてくれた
 お父さんの私への愛情が
 分かったから・・・
   
 お父さんが、私の傍にいて
 抱きしめてくれたから
 アンが私の手をとって
 『大丈夫』って、小さな手で
 握ってくれたから
 あの家にずっと居たいと
 そう思えたの」
< 134 / 275 >

この作品をシェア

pagetop