蜜林檎 *Ⅱ*
杏は、樹が自分を裏切る事など
決して無い事を分かっていた。

彼の愛に嘘は無い。

『仕事の関係で、車に乗せた
 女性が落とした物に違いない
 きっと、そう』 
 
そう、思っては見たものの
ピアスの輝きに

杏は、ひどく動揺する。

仕事へ出かける樹を、玄関先で
見送る杏。

「杏、今日も帰りは
 遅くなると思う
 
 明日、仕事だろう?
 先に眠っていていいよ」

「イツキ、いってらっしゃい」

樹は、杏の頬に手を触れ
口づけを交わそうとした。
 
杏は自分の意志とは関係なく
顔を逸らしてしまう。

気まずい空間

杏は咄嗟に、嘘をつく。

「ごめんなさい
 目にゴミが入って」

「見せて、大丈夫・・・」

「ありがとう、もう大丈夫」
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