蜜林檎 *Ⅱ*
そう言って、樹を見つめる
杏の瞳は、不安げに潤んでいる
 
「早く、帰ってきてね」

「終わったら、すぐに帰るよ」

樹の唇が、杏にそっと触れ
彼女は瞳を閉じた。

仕事へ向かう樹の後姿を見送り
ながら、杏の胸は痛み、苦しい

杏の中に、樹を疑う気持ちが
存在する。
   
『違う・・・違う・・・』
    
何度、繰り返し、そう思って
みてもピアスの輝きが
杏の胸を騒がせ、苦しめる。

それから真意は何も分からない
ままに、月日だけが経過した。

樹は、新しいアルバムを発売後
ツアーに向けての準備が
行われていた。

ピアスの一件は、今も杏の
胸の中にあり、引っかかっては
いるけれど樹の愛は誰でもない
杏にだけ向けられている。
 
杏は、この痞えを胸の奥深くに
沈めて忘れる事にした。

杏の元で、今尚、輝きを放つ

片方だけのピアス。
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