蜜林檎 *Ⅱ*
産婦人科の検診から帰って来て
疲れている百合に変わり
 
久しぶりにお店の手伝いをする
事になった杏は、雅也と一度も
顔を合わす事は無い。
 
二人とも、無言で淡々と
やらなくてはいけない仕事
をしていた。
 
間に挟まれた真はつい
深いため息をついてしまう。
 
テーブル席の片づけをしていた
杏は、誤ってグラスを地面に
落としてしまう。
 
その音に驚いた杏の瞳から
涙がこぼれた。
 
一度、零れ落ちた涙は止まる事
は無く、ずっと頬を伝う。

雅也との崩れた関係。

悩む、樹の横顔。

杏の胸は、酷く痛む・・・

グラスの割れる音に気がついた
百合がそっと杏の傍に来て
割れたグラスの破片を
かき集めて、さっと手早く
片付けてくれた。

杏は、両手で涙を拭う。

「ごめん・・・ユリちゃん」
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